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「春を奔る」

 現在発売中の『小説新潮』6月号の特集「ビジネス小説最前線」に「春を奔る」という短編が掲載されています。日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞後初の小説作品です。 

 主人公は、探偵事務所で試用期間中の、佐藤生良(いくら)という若者。当初はもう少しトリッキーなミステリーを構想していたのだが、本物の私立探偵の方への取材をセッティングしてもらってお話を聞くうちに、私立探偵を主人公にしたリアルな「お仕事もの」というのも面白いのではないかと思い、その方向へとシフトさせた。 

 なんて簡単に書いているが、けっこう苦労した。初めての短編で、感じをつかむまでにまず時間がかかってしまった。しかも至るところが粗く、ブラッシュアップをくり返すことでようやく少しずつ形になっていった。

 と書けばまるで自分ひとりが苦労したようだが、直しのたびにその都度的確な指示を与えてくれ、最後の最後まで妥協せず忍耐強く併走してくれた編集者のそれはいかばかりであったろうかと、むしろそのことが心に残っていたりする。

 送られてきた掲載誌を開いたときの喜びは、長編が単行本化されたそれにも劣るものではなかった。何事にも初めての瞬間というものがあり、どれだけ生きていてもそうした瞬間というのは特別なものなのだな、と思った今日この頃の里見です。

 

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