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白浜へ・その3

 <リブロス>から<ル・ファーレ白浜>に戻ったのは、夜の6時過ぎ。コテージに入ると2階のキッチンから料理を作っているいい匂いが漂ってきた。じつは、この日の夕食はイタリアンの出張シェフにお願いしていたのだ。

 <ル・ファーレ白浜>では、和食や中華料理やピザなどのデリバリーが頼める他、日本料理とイタリアンの出張料理のサービスも行っている。それは素敵だ、と思い、恵子ちゃんに手配してもらった。 

 仕込みは4時半頃から。留守にしていてもこうして準備をしてもらえる。キッチンには、シェフの宇田川氏とアシスタントを勤める宇田川夫人のお2人がいらした。出張料理をお願いするなど初めての経験なので、興味津々、ひとまず持参のスパークリングワインを開けてあれこれとお話を聞く。シェフは忙しいので、気さくな夫人が主に会話の相手をしてくれた。 

 宇田川氏はふだんはイタリア料理店で働き、休日に出張シェフをしているという。料理は地の魚や野菜を中心にしたもの。すぐに登場した前菜は白浜ではこれが一番のお勧めだという鯵を使ったカルパッチョだった。旨い。たしかにここでなくては食べられない味だと感じた。メインには栄螺(さざえ)と胡麻鯖が出た。どれも書いている今思い出しても生唾が湧いてくる。 

 ちなみにお値段だが、他にサラダ、スープ、パスタ、デザート、それにワインが1本(赤か白かを選べる)ついて、2人で8,000円である()。ボリュームもあるし、宇田川ご夫妻のナチュラルな接客で肩肘張ることもなく、お店じゃないので時間を気にせず酒を飲んでいられるし、何よりちょっぴり非日常的で贅沢な気分を味わえることを考えると、安い……! と唸った。 

 お2人はひと通り料理の準備をすませると、あとはごゆっくり、と引き揚げていった。ワインをかたわらに果てしなくゆっくり食事をしていると、恵子ちゃんが明日の朝食にと千倉にあるパン屋さんで焼かれたというパンを持ってきてくれたので、しばらくおしゃべりを楽しんだ。 

 彼女は今、もう少し海寄りの場所にコテージの第二棟を建設中で、7月には完成するという。小説家はそういう設備投資とは無縁の仕事なので、感心する。いろいろ大変に違いないのだが、それを感じさせないところにも。たぶんそれは、恵子ちゃんのビジネスが、持って生まれた彼女のホスピタリティの延長線上に自然に存在するものだ、というところが大きいのだろう。 

 <ル・ファーレ白浜>には宿泊以外のプランもいくつかあるが、月に1度、宇田川シェフがビュッフェスタイルの料理とともにワインを供する、会費制の試飲会も行われており、近在の多種多様な人が集まって盛況であると宇田川夫妻から聞いていた。文化的なサロンの趣もあるように感じられた。恵子ちゃんの本質は昔から変わっていないのだな、と思いつつ、翌日僕はこの地を離れた。 

 もちろん戻ってくるつもりだ。<リブロス>でワインも飲みたいし、今回できなかったBBQのリベンジも果たしたい。日帰りでもBBQのできる施設はあるが、車だと運転する人間は酒を楽しめない。聞くところでは、最近はキャンプ場の設備も本末転倒ではないかというくらいに充実しているらしいが、天気が悪くなったらホームシアターか、あるいはスタジオでのセッション(!)という転びようのある<ル・ファーレ白浜>のようなところはまずなかろう。夏の間に、BBQプラス1泊のプランを仲間で企画できたらいいなと思っている。 

※価格は僕が利用した時点のものなので、ご利用をお考えの方はご確認ください。

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